2011年8月25日木曜日

網膜疾患

網膜出血
² 種類
{ 網膜前出血
網膜内境界膜と視神経線維層のあいだに網膜血管から出血したもの。増殖性糖尿病網膜症で好発する。眼底所見にてニボーを形成するのが特徴である。
{ 網膜浅層出血
神経線維層に出血したもので、神経線維によって出血部位が放射状に見える(火焔状出血)。網膜中心静脈血栓や白血病性網膜症で生じる。
{ 網膜深層出血
網膜血管よりも深部に見える。出血は暗赤色の小斑状(点状出血) で、主として外顆粒層にたまる。糖尿病性網膜症で好発する。
{ 網膜下出血subretinal hemorrhage
{ 網膜色素上皮下出血hemorrhage under the pigment epithelium
{ white central hemorrhage(Roth's spots)

網膜中心動脈閉塞症,網膜中心動脈塞栓症centralretinal artery occlusion,CRAO
² 概念
網膜中心動脈の閉塞である。網膜中心動脈は視神経の中心を通り、視神経乳頭上で枝分かれしたのち、神経線維層で毛細血管網を形成しながらさらに分岐する。本動脈は終末動脈であるから血行途絶は直ちに壊死につながることになり、救急治療の対象となる。

² 原因
{ 動脈硬化症
{ 糖尿病
{ 大動脈炎症候群
{ 高眼圧
緑内障や外力に起因する。
{ 塞栓症
¤ 感染性心内膜炎

² 症状
突然として急激な視力消失を呈する。前兆として一過性の視力低下や光視症が先行することもある。
{ 直接対光反射消失

² 検査所見
{ 眼底検査
閉塞部位よりも抹消の網膜動脈が著しく細いか、途絶している。網膜は虚血に陥るため網膜出血はない。
¤ 桜実赤斑cherry red spot
網膜動脈の虚血によって網膜内層の軸索が膨化し眼底が広範囲に乳白色に混濁するが、網膜内層を欠く中心窩は脈絡膜より栄養されるので小紅斑として残る。

² 治療
発症後数時間で不可逆性の変化に発展するので、救急治療の対象となる。
{ 血管拡張剤
亜硝酸アミルの吸入で網膜血管を拡張する。
{ 前房穿刺
眼圧を下げる。
{ 眼球マッサージ
網膜血管の循環を改善する目的で行なう。

 網膜静脈閉塞症
² 分類
{ 網膜中心静脈閉塞症CRVO
{ 網膜静脈分枝閉塞症BRVO
網膜中心静脈閉塞症CRVO の数倍発症しやすい。

 網膜中心静脈血栓, 網膜中心静脈閉塞症central retinalvein occlusion,CRVO
² 概念
生理的な狭窄抵抗のある網膜静脈の視神経篩板部通過部位に好発する。高血圧や糖尿病を持つ高齢者に多く、左眼よりも右眼に好発する。

² 病態生理
動脈硬化によって静脈が圧排され、網膜中心静脈が主幹部で閉塞することにより、視神経乳頭を中心に放射状の網膜出血を来たす。
{ 網膜浅層出血linear hemorrhage, super¯cial retinal hemorrhage
網膜表層の神経線維層に出血したもので、神経線維の走行に沿って出血するため、放射状に見える。
{ 新生血管の出現
広範囲な網膜虚血に反応して血管新生促成因子が産生され、血管新生が亢進する。発症から半年ほど経って出現するが、血管壁が脆弱なために容易に出血し、続発性緑内障へと発展する。

² 症状
突然、無痛性に視力低下を来たす。

² 検査所見
{ 眼底所見
¤ 火焔状出血°ame-shaped hemorrhage
¤ 綿花様白斑cotton-wool spots

² 合併症
{ 新生血管緑内障neovascular glaucoma
糖尿病性網膜症や虚血性網膜中心静脈閉塞に続発し、虹彩の血管新生(虹彩ルベオーシス) によって前房角が閉塞されて眼圧が上昇するもので、予後不良となりやすい。広範囲な網膜虚血に反応して血管新生促成因子が産生され、これによって血管新生が亢進する。
{ 慢性黄斑浮腫

² 治療
{ レーザー光凝固法
蛍光眼底造影で無血管野を探し、ここをレーサーにて焼灼し、新生血管の増生を抑制する。また新生血管緑内障を予防する目的で虹彩ルベオーシスに対して行なう。

 網膜静脈分枝閉塞症branch retinal vein occlusion,BRVO
² 概念
網膜静脈の分岐が閉塞を来たし、網膜に出血を来たす疾患である。上耳側静脈域に好発する。

² 原因
高血圧が危険因子となる。網膜の動静脈が交差する部位は血管壁が共通であるために動脈硬化が静脈に波及しやすいからである。また交叉現象は上耳側に生じやすいため、本症は上耳側静脈域に好発する。

² 病態生理
網膜静脈分枝閉塞症では動静脈交叉にて静脈の閉塞と出血が生じるとともに、それより末梢では毛細血管が閉塞して無血管野となる。
{ 動静脈交叉現象arteriovenous crossing phenomenon
高血圧性網膜症において、動静脈はその交叉部において外膜を共有しているために動脈壁が肥厚すると静脈が圧迫されて閉塞する。これより抹消では血液の鬱滞と出血が生じる。交叉現象は上耳側に多い。
{ 無血管野領域
出血を来たした部位の網膜は毛細血管が閉塞し、のちに無血管野となる。無血管野からは新生血管が増生することになる。

² 症状
{ 視野障害

² 検査所見
{ 眼底所見
動静脈交叉から抹消にかけて、閉塞した静脈の支配領域に応じた網膜出血を認める。

² 合併症
{ 黄斑浮腫
{ 網膜新生血管

² 治療
{ 光凝固法
無血管野領域に対して行ない、新生血管の増生を抑制する。

網膜色素変性症pigmentary retinal dystro-phy,retinitis pigmentosa
² 概念
夜盲や視野障害などの症状を呈する遺伝性疾患の総称であり、遺伝形式は常染色体劣性遺伝が多い。10 歳頃より発症し、徐々に進行しながら最終的に50 歳頃には失明に至る。

² 病態生理
常染色体優性遺伝形式の本症ではロドプシン遺伝子の異常が報告されている。

² 症状
{ 暗順応障害nyctalopia
進行性の夜盲を呈する。
{ 視野狭窄
最初は輪状暗転で始まり、求心狭窄に至る。なお眼圧は正常であり、中心窩は末期まで侵されないので中心視力は長期間保たれる。

² 検査所見
{ 眼底所見
¤ 骨小体様色素沈着bone-spicule formation
眼底上周辺網膜に骨小体を特徴とする黒色の色素斑が出現する。
¤ 血管の狭細化
¤ 嚢胞様黄斑浮腫
{ 網膜電図ERG
初期からa 波およびb 波が消失する。

² 合併症
{ 白内障

網膜剥離retinal detachment
感覚網膜が網膜色素上皮層から剥離する病態をいう。

² 分類
{ 裂孔原性網膜剥離rhegmatogenous retinal detachment
裂孔rhegma から硝子体液が網膜下に入り込むと、色素上皮と視細胞外節との接着は弱いために、色素上皮と視細胞層との間が剥離する。網膜剥離のなかで頻度がもっとも多い。
¤ 後部硝子体剥離
¤ 眼球外傷
{ 牽引性剥離tractional detachment
多くは増殖性糖尿病性網膜症に起因し、網膜が硝子体眼房に牽引されることで生じる。
¤ 増殖性糖尿病性網膜症
¤ 未熟児網膜症
{ 漿液性剥離, 出血性剥離serous detachment,hemorrhagic detachment
色素上皮層や脈絡膜の疾病に続発し、感覚網膜の下に液が貯留することによって生じる。
¤ 中心性漿液性網脈絡膜症(増田型)
¤ 原田病
¤ 老人性黄斑変性

² 症状
{ 飛蚊症
{ 光視症
{ 視野欠損
{ 視力障害
{ 虹彩振盪iridodonesis
眼圧が下降するために眼球運動に伴なって虹彩がピラピラと振動する所見である。

² 検査所見
{ ERG
a 波およびb 波とも減弱もしくは消失する。
{ 眼圧低下

² 合併症
{ 線状網膜炎striate retinitis

² 治療
{ 裂孔原性網膜剥離に対する治療
裂孔を閉鎖し、網膜下液を排除して網膜を完全に復位する。さらに脈絡膜内に損傷部をつくって網膜をこれに瘢痕癒着させる。
{ 牽引性剥離に対する治療
硝子体切除、scleral buckling, ならびに眼球内へのシリコン油の注入。
{ 漿液性剥離, 出血性剥離に対する治療

 裂孔原性網膜剥離rhegmatogenous retinal detachment
² 概念
色素上皮とBruch 氏膜との接着は強固であるのに色素上皮と視細胞外節との接着は弱いため、裂孔から硝子体液が網膜下に入り込み、色素上皮と視細胞層との間が剥離する。網膜剥離のなかで頻度がもっとも多く、しばしば後部硝子体剥離posteriorvitreous detachment に随伴する。

² 分類
{ 急性裂孔原性網膜剥離
硝子体が裂孔を通じて網膜下腔に侵入し、sensory retina を色素上皮層から剥離する。
{ vitreoretinopathy に随伴した裂孔原性網膜剥離

² 原因
強度近視・無水晶体症・外傷などが契機となる。
{ 近視myopia
¤ 格子様変性lattice degeneration
¤ 後部硝子体剥離
{ 無水晶体症aphakia
{ 眼球外傷

² 症状
突発的に発症することが多い。
{ 光視症
網膜剥離の瞬間にキラキラと光ったものが見える。
{ 飛蚊感
{ 視力低下、視野狭窄

² 治療
裂孔を閉鎖し、網膜下液を排除して網膜を完全に復位する。さらに脈絡膜内に損傷部をつくって網膜をこれに瘢痕癒着させる。
{ 強膜短縮scleral buckling
弾力性のあるシリコン樹枝の棒などを強膜上に置き、この上に縫合糸をかけて強膜を網膜側に密着させる。
{ 硝子体置換術pneumatic retinopexy
ガスやオイルを眼内に注入する。

 牽引性網膜剥離tractional retinal detachment
² 概念
多くは増殖性糖尿病性網膜症に起因し、網膜が硝子体眼房に牽引されることで生じる。

² 原因
{ 糖尿病性網膜症
{ proliferative vitreoretinopathy
{ 未熟児網膜症
{ 眼球損傷

² 症状
症状は緩徐に進行するため飛蚊症やphotopsia が見られることは少なく、視野障害が徐々に進行する。

² 治療
硝子体切除、scleral buckling, ならびに眼球内へのシリコン油の注入を行なう。

未熟児網膜症retinopathy of prematurity,retrolental ¯broplasia, ROP
² 概念
網膜血管の増殖と出血によって網膜剥離をきたして失明するもので、未熟児の失明の原因として最多である。

² 原因
特に高酸素血症が誘因となる。

² 病態生理
出生後、網膜血管が順調に発育せずに異常な新生血管が発生し、出血と瘢痕によって牽引性網膜剥離に至る。

 網膜浮腫retinal edema
² 原因
{ 糖尿病性網膜症
{ ブドウ膜
{ 高血圧性網膜症

黄斑部疾患
² 種類
{ 中心性漿液性網脈絡膜症(増田型)
眼底所見にて、黄斑部を含む円形の限局した浸出液貯留による網膜剥離を呈する。
{ 中心性滲出性網脈絡膜炎(Rieger 型)
{ 梅毒性中心性網脈絡膜炎
{ トキソプラズマ性網脈絡膜炎

² 症状
{ 中心暗点

 中心性漿液性網脈絡膜症, 中心性網脈絡膜症増田型centralserous chorioretinopathy,CSR
² 概念
漿液性の網膜剥離であり、精神的なストレスの多い働き盛りの男性に好発する。

² 病態生理
黄斑部の網膜と脈絡膜のあいだにある色素上皮に裂け目ができ、脈絡膜からの漏出液が網膜下に貯留する。

² 症状
{ 中心暗点central scotoma
{ 色覚異常
{ 変視症metamorphopsia
漏出液によって網膜が隆起するため、対象が歪んで映る。
{ 遠視化
眼軸が短縮して遠視化する。

² 検査所見
{ 眼底検査
黄斑部を含む円形の限局した浸出液貯留と、それによる網膜剥離が認められる。
¤ 黄斑浮腫
{ 蛍光眼底撮影
病態を反映して、黄斑部において噴水状に漏出する色素が見られる。
¤ smoke-stack

² 治療
通常では半年以内に自然治癒する。視力低下が著しい場合や再発する難治例に対しては光凝固法を用いる。
{ 光凝固法
ただし本症は黄斑部近傍が病変なのでレーザーが黄斑部に照射されないように注意する。

 黄斑変性macular degeneration
² 概念
錐体細胞に障害を受けるので視力低下が必発となるが、網膜電図は正常である。

² 分類
{ 老人性
¤ 萎縮型
¤ 滲出型, 円盤状黄斑変性
{ 先天性

² 症状
{ 中心暗点
老人性黄斑変性, 年齢依存性黄斑変性, 加齢黄斑変性senile macular degeneration,age-

² 概念
60 歳以上の高齢者に見られる黄斑変性症をいう。欧米では高齢者の失明の原因として最多である。

² 分類
{ 萎縮型dry,nonexudative
網膜色素上皮層・Bruch 膜・脈絡膜毛細血管に萎縮と変性を生じる。
{ 滲出型, 円盤状黄斑変性wet, exudative, disciform
黄斑下の脈絡膜から生じた新生血管の増生によって黄斑下出血や黄斑浮腫などを続発して高度の視力障害に陥る。

² 原因
紫外線暴露が要因のひとつであると考えられている。

² 病態生理
Bruch 膜に亀裂が生じ、脈絡膜毛細血管層から色素上皮下にかけて新生血管が増生する。この新生血管が出血を繰りかえして結合組織の増生を生じる。特に黄斑部の網膜に好発するため視力低下は必至である。

² 症状
両側性に中心性の視力低下を生じる。
{ 中心暗点
{ 変視症
結合組織の増生によって黄斑部が隆起して変視をきたす。

² 検査所見
{ 眼底検査
滲出型では網膜下出血や硬性白斑など、新生血管を示唆する所見を得る。初期にはドルーゼンdruzen と呼ばれる黄色の沈着物が黄斑部に出現する。
{ 蛍光造影眼底検査
脈絡膜からの増生する新生血管が描出され、確定診断となる。

² 合併症
{ 漿液性網膜剥離

² 治療
{ レーザー光凝固法
黄斑下の新生血管が中心窩の外にある場合はこれを破壊する。病期の進行を抑止できるが、失われた視力は回復しない。
{ 硝子体手術
{ 網膜回転術
13.7.3 黄斑浮腫macular edema

² 原因
{ 眼内手術

 白血病性網膜症,白血病眼症leukemic retinopa-thy
² 概念
白血病、主に急性白血病に合併した眼病変をいう。

² 検査所見
{ 眼底所見
¤ 綿花様白斑cotton-wool spots
¤ 網膜出血

ぶどう膜炎 

10.2 ブドウ膜炎uveitis
² 概念
ブドウ膜とは虹彩・毛様体・脈絡膜の総称であり、角膜・強膜からなる眼球の外膜と神経上皮由来の網膜からなる内膜のあいだに中膜として存在し、血管とメラノサイトに富む。前部ブドウ膜炎は虹彩炎・iridocyslitis・cyslitis・pars planitis を含み、後部ブドウ膜炎はretinochoroiditis のことで、ブドウ膜炎とは前後部ブドウ膜に炎症が生じた状態である。ただし広義には網膜炎も含まれる。

² 分類
{ 前部ブドウ膜炎
¤ 虹彩炎
¤ 虹彩網様体炎
{ 中間部ブドウ膜炎intermediate
¤ pars planitis
{ 後部ブドウ膜炎
retinitis,choroiditis,retinal vasculitis, optic neuritis を含む。症状とし
て視野狭窄や視力低下を招きやすく、予後も悪い。
¤ 網膜炎
¤ 脈絡膜炎
¤ 原田病Vogt-Koyanagi-Harada disease
¤ 急性網膜壊死, 桐沢型ブドウ膜炎
{ 汎ブドウ膜炎
炎症の種類によって分類すると以下のようになる。
{ 肉芽腫性ブドウ膜炎
リンパ球や類上皮細胞が集まって肉芽腫を形成するもの。梅毒・結核・ウェゲナー肉芽腫症・交感性眼炎など。
{ 非肉芽腫性ブドウ膜炎
リンパ球や形質細胞の浸潤はみられるが、肉芽腫を形成しないもの。ベーチェット病・関節リウマチ・強直性脊椎炎など。

² 原因
日本ではベーチェット病・サルコイドーシス・原田病が原因として多い。
{ 外因性
外傷や外科手術に起因する。
{ 内因性
病原体が血行性に移行した場合や、自己免疫反応に起因する。
¤ ベーチェット病
¤ サルコイドーシス
¤ 原田病Vogt-Koyanagi-Harada disease
¤ 潰瘍性大腸炎
¤ 感染症
¢ 帯状疱疹
¢ トキソプラズマ症
¤ 免疫異常
¤ 悪性腫瘍

² 症状
視力および眼圧に異常を呈することが多い。

² 検査所見
{ 角膜所見
¤ 角膜後面沈着物keratic precipitate
前房中の炎症細胞が角膜内皮に沈着したもの。
¤ 角膜内皮細胞の障害による角膜浮腫
¤ 帯状角膜変性症band keratopathy
前部ブドウ膜炎の遷延化。
{ 毛様充血ciliary injection
虹彩、毛様体の炎症による毛様体部の充血であり、前部ブドウ膜炎で見られる。
{ 前房所見
炎症によって前房水中のタンパク濃度が上昇して混濁し、その中に炎症細胞が浮遊する像がみられる。
¤ 前房蓄膿
{ 隅角所見
隅角結節・隅角色素沈着など。
{ 虹彩所見
{ 硝子体所見
¤ 硝子体混濁
通常は微塵状混濁がみられるが、混濁が大きくなって弓状を形成すると雪玉状混濁snow ball like opacity となり、それが連なると首飾り状混濁string of pearls と呼ばれる。
{ 眼底所見
¤ 網膜浮腫
¤ 視神経乳頭所見
¤ 網膜血管炎
¤ 原田病では夕焼様眼底sunset fundus広汎な色素脱失により眼底が明るく見える。

² 合併症
{ 併発白内障

² 治療
{ 散瞳薬
虹彩網様体炎に対して、前眼部の安静と虹彩後癒着を防止するために
用いられる。
{ ステロイド剤
ただし副作用による白内障と緑内障の合併に注意する。
{ 抗菌剤
{ 免疫抑制剤
{ 毛様体筋麻痺薬cycloplegic
毛様体筋を麻痺させる。
10.2.1 前部ブドウ膜炎,虹彩毛様体炎anterior uveitis,iridocyclitis

² 概念
前部ブドウ膜炎とは虹彩炎・虹彩毛様体炎・毛様体炎・pars planitis などを
いう。

² 原因
{ 内因性
病原体が血行性に移行した場合や、自己免疫反応に起因する。
¤ 自己免疫性
¢ ベーチェット病
内因性のブドウ膜炎としては最多である。
¢ サルコイドーシス
¢ 若年性関節リウマチ
¢ 強直性脊椎炎
¢ ライター症候群Reiter's syndrome
¢ Lens-induced uveitis
¤ 感染症
¢ 角膜ヘルペス
¤ サルコイドーシス
¤ 悪性腫瘍
{ 外因性
外傷や外科手術に起因する。

² 症状
{ 羞明感
{ 霧視
{ 前房蓄膿hypopyon
前房下部に白血球が貯留したために、前房下方に白血球が水平線を形成した所見をいう。

² 合併症
高眼圧にも低眼圧にもなりうる。
{ 続発性緑内障
炎症の結果として隅角に滲出物が蓄積するから。
{ 眼球癆
毛様体炎が強いと毛様体での房水産生の低下により、低眼圧から眼球癆を招く。

² 治療
{ 散瞳薬
アトロピンを点眼し、毛様体筋を麻痺させて散瞳させることで虹彩の癒着を防止する。虹彩毛様体炎が主体となる病型が適応となる。

 後部ブドウ膜炎posterior uveitis
² 概念
網膜炎, 脈絡膜炎,retinal vasculitis, optic neuritis を含む。症状として視野狭窄や視力低下を招きやすく、予後も悪い。

² 原因
{ 原田病Vogt-Koyanagi-Harada disease
{ 急性網膜壊死, 桐沢型ブドウ膜炎
{ ベーチェット病
{ サルコイドーシス
{ 感染症
¤ 結核
¤ 梅毒
¤ ハンセン氏病
¤ トキソプラズマ
血行性にトキソプラズマ原虫が眼に移行する。
¤ 真菌性眼内炎
¤ サイトメガロウイルス網膜炎
{ MEWDS, multiple evanescent white dot syndrome
{ APMPPE, acute posterior multifocal placoid
{ Birdshot retinochoroidopathy
{ 地図状脈絡膜炎
{ 交感性眼炎
{ 急性網膜壊死(桐沢型ブドウ膜炎)

² 治療
{ ステロイド全身投与
網脈絡膜炎が主体となる病型が適応となる。

脈絡膜炎chorioiditis
² 原因
{ 原田病
{ 先天性トキソプラズマ症
² 検査所見
{ 眼底検査
黄斑部を中心に強膜を露出した網脈絡膜炎の瘢痕萎縮を呈する。

原田病Vogt-Koyanagi-Harada disease
² 概念
数日間の経過で高度の視力障害を起こす、両眼性の急性びまん性ブドウ膜炎である。急性に発症し、脈絡膜をはじめ皮膚や髄膜などの色素細胞を系統的に侵すものである。

² 病因
色素上皮のメラノサイトに対する自己免疫疾患であると考えられている。

² 症状
感冒症状や髄膜炎症状の後に突如として耳鳴り・感音性難聴・頭痛ではじまり、その数日後に両眼性の視力低下を来たす。皮膚症状は最後に出現する。
{ 感音性難聴
{ 視力低下
急激に両眼性に視力が低下する。
{ 色素脱失
頭髪や皮膚に斑状の脱色素が出現する。
¤ 皮膚白斑
¤ 脱毛症

² 検査所見
{ 眼底検査所見
¤ 脈絡膜の腫脹と混濁
¤ 夕焼け様眼底sunset fundus
脈絡膜の色素細胞が破壊されて脈絡膜血管が透見される所見であり、治癒後に見られる。
¤ 滲出性網膜剥離
{ 蛍光眼底像
脈絡膜側からの色素漏出点が多発し、剥離した網膜下に貯留する。
{ 髄液所見
無菌性髄膜炎を呈する。

² 治療
しばしば再燃する。
{ ステロイド大量療法
急性網膜壊死, 桐沢型ブドウ膜炎
サイトメガロウイルス網膜炎cytomegalovirus retinitis

交感性眼炎sympathetic ophthalmia
² 概念
片方の眼球に穿孔性外傷を受け、その後に他眼に発症するブドウ膜炎をいう。

² 病態生理
外傷時に脱出したブドウ膜が空気に触れ、変性した色素上皮に対して自己免疫反応が生じたために、健側のブドウ膜にも炎症が波及する。

² 症状
原田病に類似する。

² 治療
{ 薬物療法
¤ アトロピン点眼
¤ ステロイド全身投与
{ 外科療法
¤ 眼球摘出術
重症例に対しては健眼を助けるために受傷した眼球を摘出する。

眼サルコイドーシスocular sarcoidosis
多臓器に非乾酪性の類上皮細胞肉芽腫を形成する原因不明の全身性疾患であり、眼病変としては肉芽腫性のブドウ膜炎を呈する。

² 病態生理
非乾酪性肉芽腫が全身の諸臓器に形成される。
{ 眼病変
¤ ブドウ膜炎uveitis
¢ 虹彩炎
¢ 脈絡膜炎
¤ 網膜静脈炎retinal phlebitis
¤ サルコイド結節
¤ 周辺虹彩癒着peripheral anterior synechia,PAS
隅角のサルコイド結節が吸収されて周辺虹彩の前面と角膜が癒着するものであり、房水の流出障害によって眼圧上昇を続発する。
{ 皮膚病変
¤ 皮膚サルコイド
¤ 瘢痕浸潤
¤ 結節性紅斑
{ 肺病変
特に肺胞領域の間質に肉芽腫が形成され、その近傍にはリンパ球および単球の浸潤が見られる。
¤ 両側肺門リンパ節腫脹

² 症状
羞明感や視力障害など両眼性に見られる。
{ 急激な視力低下

² 検査所見
{ 眼底所見
¤ 眼底のワックス様浸潤candle-wax spot
¤ 網膜の新生血管増生retinal neovascularization
¤ 真珠の首飾りstring of pearls
{ 血沈亢進
{ 高カルシウム血症
{ γグロブリン上昇
{ 血清ACE 上昇
{ ツベルクリン反応陰転化

² 合併症
{ 続発性緑内障
² 病理所見
封入体を持つ多核巨細胞の出現が見られる。

² 治療
{ 抗炎症剤としての副腎皮質ホルモンの投与特に心臓・中枢神経・腎臓などの生命予後に関係する臓器が侵された場合には絶対適応となる。

解剖3

水晶体lens
² 概念
無血管組織であり、房水から栄養されて嫌気的糖代謝によってエネルギーを産生する。

² 構造
虹彩の裏側で毛様小帯によって硝子体前面に固定されている。
{ 水晶体嚢lens capsule
水晶体を覆う透明なカプセルであり、前面を前嚢、後面を後嚢という。前面は水晶体上皮細胞の層で裏打ちされている。Na+-K+ 依存性ATPase を備え、水分の能動輸送を行うことによって水晶体の含水量を調節している。
{ 水晶体質lens substance
¤ 水晶体皮質
¤ 水晶体核
20 歳を過ぎたころから形成される。

1.9 硝子体
² 概念
硝子体は眼球の内部の大部分を満たしている無色透明のゲルで、99%が水で構成される。硝子体は水晶体の後ろに接し,眼球の奥では網膜と接する。その機能は、眼球の形を保つと同時に,入ってくる光を屈折させる点にある。

1.10 眼底fundus
² 構造
{ 視神経乳頭, 視神経円板
視神経および動静脈が出入りする。
{ 黄斑部macula
後網膜の中心部に存在する、黄色の部位であり、真ん中に中心窩が存する。ここには錐体細胞しかなく、視力がもっともよい部分である。

1.10.1 黄斑部macula
² 概念
後網膜の中心部に存在する、黄色の部位であり、真ん中に中心窩が存する。ここには錐体細胞しかなく、視力がもっともよい部分である。

² 構造
{ 中心窩fovea
{ avascular zone
網膜動脈を欠き、もっぱら脈絡膜から栄養される。
{ foveola
神経節細胞を欠く。

視覚路visual pathway
1. 視交叉optic chiasm
視床下部の漏斗の吻側にある扁平な線維板。その上面は第三脳室と前交連動脈に接し、下面は下垂体の上に乗っている。したがって下垂体前葉の腫瘍や脳脊髄液の充満による第三脳室の膨張が、視交叉を圧迫することがある。ここで左右の視神経は合一し、線維の交差が起こる。網膜の内側より発する線維はすべて対側へ交差し、外側より発するものは交差せずに同側の視索にはいる。

2. 視索
線維の8 割が外側膝状体に向かい、残りの2 割1は上丘腕を通って上丘と視蓋前域に達する。
² retinogeniculate tract
² retinopretectal tract
対光反射を担い、上丘と視蓋前域に向かう経路。

3. 外側膝状体
網膜は外側膝状体と点対点の対応をしている。さらに外側膝状体は第1 次視覚野に対応している。

4. 膝状体烏距路geniculocalcarine tract
視放線を形成する。外側膝状体より起こり、内包を通過し、第1 次視覚野である後頭葉の第17 野に終わる。1対光反射の経路となる

² 視放線occipitothalamic radiation
5. 視覚野, 有線野striate area
² 第1 次視覚野
Brodmann 第17 野であり、後頭葉の内側面で、烏距溝の周辺を占める。網膜より上半分は烏距溝の上縁に、下半分は下縁に投射する。黄斑部からの投射は後極の広い部分を占める。
² 視覚前野, 前有線野prestriate area
² 高次視覚野

 次視覚野
² 1 次視覚野の機能
{ 方向
{ 左右の視野の振り分け
{ 色覚
色の情報を形状と運動の情報から分離する。

解剖2

1.5.2 強膜sclera
² 概念
眼球のもっとも外側に位置する乳白色の硬い膜であり、前方は角膜とつながる。
構造的には腱に近く、血管が少なくてほとんど光を通さない。このため眼球内へ不必要な入光を防ぐとともに眼球の内部を保護するという機能を持つ。

1.6 ブドウ膜uveal tract
² 概念
ブドウ膜とは、強膜と網膜の中間にある血管や色素に富んだ膜であり、虹彩・毛様体・脈絡膜の総称である。網膜に血液を供給する役割を担う。

² 構成
{ 虹彩
{ 毛様体
虹彩を固定する役目とチン氏帯を介して水晶体を支え水晶体の厚さを
変える働きをするとともに、房水産生にもかかわる
¤ ora serrata
¤ ciliary process (pars plicata)
¤ pars plana
¤ zonule
¤ 毛様体筋ciliary muscle
{ 脈絡膜
内側の網膜と外側の強膜によってはさまれた薄い膜であり、多量の色素を含むことで眼球内を暗く保つ。血管が豊富であり、血管のない網膜外層に栄養を補給する機能も有する。

1.6.1 瞳孔pupil
虹彩iris
² 概念
毛様体が前方に延長したもの。

² 構造
虹彩には輪状筋(瞳孔括約筋) と放射状筋(瞳孔散大筋) があり、前者が収縮すると瞳孔が縮小し、後者が収縮すると瞳孔は拡大する。
{ 瞳孔括約筋pupillary sphincter muscle
動眼神経の副交感神経線維に支配され、この筋肉が収縮すると縮瞳する。
{ 瞳孔散大筋pupillary dilator muscle
虹彩後面に放射状に分布する筋であり、交感神経に支配され、これが収縮すると開瞳する。

毛様体ciliary body
² 概念
虹彩を固定する役目とチン氏帯を介して水晶体を支え,水晶体の厚さを変える働きをするとともに、房水産生にもかかわる。

² 構造
{ ora serrata
網膜との境界である。
{ ciliary process (pars plicata)
{ pars plana
{ zonule
{ 毛様体筋ciliary muscle
¤ 縱走筋(ブリュッケ筋Brucke 筋)
毛様体内部に縦方向に走る。
¤ 輪状筋(ミュラー筋Muller 筋??)
毛様体内部に輪状に走る平滑筋である。動眼神経の副交感性線維に支配され、縮瞳に関与する。

1.6.2 脈絡膜choroid
² 概念
胸膜と網膜の間に位置し、血管と色素に富んだ層。

1.7 網膜retina
² 網膜の層
網膜は外側より10 層より構成される。
{ 網膜色素上皮層pigment epitheliumsupporting cells for the neural portion of the retina (photopigment
regeneration, blood) it is also dark with melanin which decreases lightscatter within the eye.
{ 感覚網膜sensory retina
眼杯内壁から発生し、3 つのニューロンから構成される。
¤ 視細胞層Bacillary layer,Layer of photoreceptor cellscontains the outer segments and inner segments of the rod andcone photoreceptors.
¢ 捍体rod
もっとも光に鋭敏な細胞であり、暗所においても対象の輪郭を識別できるが、色を感じることはできない。視物質としてロドプシンを持つ。
¢ 錐体cone
3 種類存在し、それぞれが吸収波長を異にすることによって色を識別する。特に中心窩に多い。視物質としてヨードプシンを持つ。
¤ 外境界膜Outer limiting membrane
¤ 外顆粒層Outer Nuclear Layer (ONL) - cell bodies of rods &cones
¤ 外網状層Outer Plexiform Layer (OPL) - rod and cone axons,horizontal cell dendrites, bipolar dendrites
¤ 内顆粒層Inner Nuclear Layer (INL) - Nuclei of horizontal, bipo-lar and amacrine cells
¤ 内網状層Inner Plexiform Layer (IPL) - axons of bipolars (andamacrines), dendrites of ganglion cells
¤ 神経節細胞層Layer of Ganglion cells (GCL)Nuclei of the ganglion cells and displaced amacrine cells
¤ 神経線維層nerve ¯ber layer
¤ 内境界膜

² ニューロン細胞
{ 双極細胞
視細胞と神経節細胞を連結する。
{ 水平細胞horizontal cell
横方向に視細胞を結合する。側方抑制を担う。
{ アマクリン細胞, 無軸索細胞amacrine cell
横方向に神経節細胞同士を相互に結合する
{ 神経節細胞
視神経線維が起こる。
¤ M 細胞
大きな神経節細胞であり、各種の錐体からの反応を加算して運動と立体視に関係している。
¤ P 細胞
小さな神経節細胞であり、各種の錐体からの反応を引いて色覚に関係している。
1.7.1 視細胞photoreceptor
² 種類
{ 錐体cone
形態と色覚を担うほか、明所視での視感度曲線はヨードプシンの吸収曲線に近いため、明所視を担う。中心窩には錐体しかなく、視力がもっともよい部分である。
{ 捍体rod
わずか一個の光量子にも反応するなど、光に鋭敏に反応する。また暗所視での視感度曲線はロドプシンの吸収曲線に近く、暗所視を担う。中心窩には存在せず、周辺部に多い。
¤ 外節膜outer segment
光を受容する部位である。
¤ 内節膜inner segment
ミトコンドリアとリボゾームに富み、Na+-K+ ATPase が存在
する。

視物質
² 種類
{ ロドプシン
ロドプシンrhodpsin は捍体の視物質であり、opsin とretinal の複合体である。
¤ オプシンopsin
膜を7 回貫通する膜貫通型タンパク
¤ レチナールretinal
opsin に結合している。光照射によってcis からtrans に変換する。vitamin A から生成される。
1. 光照射によるロドプシンの光化学変化
(a) 光照射によりレチナールが11-cis 型からall-trans 型へ変わる
(b) ロドプシンはレチナールとオプシンに分解される

2. ロドプシンの回復
(a) 11-cis 型のビタミンA が色素上皮より捍体外節へと送り込まれる
(b) アルコール脱水酵素とNAD の作用によりビタミンA はレチナールとなる
(c) レチナールはオプシンと結合してロドプシンとなる
{ 錐体の視物質
錐体cone の視物質は, ヨードプシンiodopsin である。ヨードプシンは高照度下においてのみ反応し、色覚に関係する。3 原色に対応した3 種類の錐体がある。

解剖1

1.1 眼瞼eyelids
² 構造
{ 眼瞼筋
¤ 眼瞼挙筋
¤ 眼瞼板筋, ミュラー筋Muller's muscle
交感神経支配の平滑筋であり、眼瞼挙上に関与する。
{ 眼輪筋
² 眼瞼運動障害
{ 眼瞼下垂
{ 兎眼lagophthalmos
眼瞼の閉鎖不全によって眼球が露出している状態であり、長く続くと角膜が乾燥して角膜潰瘍となる。顔面神経麻痺が原因となる。

1.2 眼窩orbit
² 眼窩壁
{ 前頭骨
眼窩の屋根を構成する。
{ 蝶形骨sphenoid bone
蝶形骨の小翼は視神経孔を含み、眼窩の屋根を構成する。
{ 頬骨zygomatic bone
眼窩側壁の前面を構成する。
{ 上顎骨
{ 涙骨lacrimal bone
{ 篩骨ethmoid bone
{ 口蓋骨
眼窩は総計7個の骨によって構成され、上下内外側の4壁に分けられる。まず上壁は主として前頭骨眼窩面からなり、後端に蝶形骨小翼がある。下壁は上顎骨眼窩面が主であり、口蓋骨の眼窩突起がその奥に存する。内側壁は篩骨の眼窩板と涙骨からなり、外側壁は頬骨の眼窩面と蝶形骨の大翼によって形作られる。

² 陥穽
{ 眼窩上孔foramen supraorbitale
三叉神経(眼窩上神経) および眼動脈(眼窩上動脈) の通路。
{ 涙腺窩fossa glandulae lacrimalis
{ 視神経管canalis opticus
視神経および眼動脈の通路である。
{ 上眼窩裂¯ssura orbitalis superior
動眼神経、滑車神経、眼神経、外転神経、上眼静脈などの通路。
{ 下眼窩裂¯ssura orbitalis inferior
上顎神経(眼窩下神経)、頬骨神経、下眼静脈などの通路。眼窩下動脈はここから眼窩に入り、眼窩下孔へ抜ける。
{ 涙嚢窩 fossa sacci lacrimalis
鼻涙管が通る。
{ 頬骨眼窩孔 foramen zygomaticoorbitale
頬骨神経の通路。ここから頬骨管canalis zygomaticus が始まり、骨内で分岐して頬骨顔面孔と頬骨側頭孔に分岐する。
{ 眼窩下孔 foramen infraorbitale
眼窩下神経および眼窩下動脈および眼窩下静脈の通路。

1.3 眼の脈管
² 動脈系
{ 眼動脈ophthalmic artery
内頸動脈からの終枝のひとつである眼窩上動脈は、眼窩上孔を通って前頭部に抜け、以下の枝を出して眼窩の構造物に血液を供給する。
¤ 網膜中心動脈central retinal artery
視神経の中心を通り、視神経乳頭上で枝分かれしたのち、神経線維層で毛細血管網を形成しながらさらに分岐する。
¤ 涙腺動脈lacrimal artery
涙腺と上眼瞼に分布する。
¤ posterior ciliary artery
¢ long posterior ciliary artery
¢ short posterior ciliary artery
¤ medial palpebral artery
¤ supraorbital artery
¤ supratrochlear artery

² 静脈系
{ 網膜中心静脈
直接に海綿静脈洞に入るものと上下眼動脈に入るものがある。

1.4 結膜conjunctiva
² 概念
結膜とはまぶたの内面と強膜の前面をおおううすい透明な膜であり、眼球と限瞼をむすぶ組織である。結膜の知覚は、三叉神経の第1 枝と第2 枝によって支配されているため、角膜と同じく痛覚と冷覚だけしかない

² 構造
{ 眼瞼結膜palpebral conjunctiva
{ 円蓋部結膜forniceal conjunctiva
瞼結膜から球結膜へと移る間の部分。
{ 眼球結膜bulbar conjunctiva
角膜との境界で強膜の上をおおいっている部位。

1.5 外膜
1.5.1 角膜cornea
² 概念
角膜は眼球の最前部にあって強膜とともに眼球の前壁を構成する。なお角膜は無血管組織であり、栄養の補給と代謝産物の除去は前房水・蹄係網・涙水によってなされる。

² 機能
その機能は、眼球の形態を保持するとともに、透明性を維持して外界の光線を通過させ、かつ屈折させる点にある。
{ 屈折
眼の屈折力は約60 ジオプトリーであるが、角膜のそれは40 ジオプトリーと2/3 を占める。
{ 紫外線遮断

² 構造
{ 上皮
球結膜に連続する重層扁平上皮で、底部に基底膜を持つ。
{ ボーマン氏膜Bowman's membrane
細胞を欠く無構造の膜で、多数の小孔があり角膜神経の穿通枝で貫かれている。一度破壊されると再生されない。
{ 角膜実質stroma
均一な膠原線維が平行して配列し、全体として格子構造を形成する。
{ デスメ氏膜Descemet's membrane
内皮細胞で産生された膠原線維からなる基底膜であり、細胞成分を欠く。
{ 角膜内皮細胞corneal endothelium
1 層の細胞で構成され、重炭酸塩ポンプを持ち角膜の含水量を調節する。角膜実質から水を前房へと汲み出すポンプ機能を担うので、内皮細胞の障害によって角膜浮腫を招く。なお角膜内皮細胞はいったん脱落すると再生しないので、欠損部は周囲の内皮細胞が伸展してこれを補う。

2011年8月15日月曜日

角膜問題

角膜小テスト

1.単純ヘルペス角膜炎について次の①~⑤の内容が上皮型についての内容であればA,実質型についてならB,どちらにもあてはまる場合はCと記入せよ

1)(((A)))角膜知覚の低下が見られ
2)(((B)))壊死性角膜炎を呈する
3)(((A)))ステロイド薬の使用は禁忌である
4)(((C)))アシクロビル眼軟膏が治療には有用である
5)(((A)))地図状角膜炎を呈する

2.円錐角膜について正しいものには○、間違っているものには×を記入せよ
1)(((×)))細菌感染である
2)(((×)))円錐部の周辺に見られる色素沈着線をカイザー・フライシャー線という
3)(((○)))多くは両眼性である
4)(((×)))デスメ膜破裂によって水疱性角膜炎を生じる
5)(((○)))不正乱視による視力低下を呈する

3.円錐角膜の初期段階の治療法を記入せよ
(((ハードコンタクトレンズ装用による不正乱視の矯正)))

4.SCL装用者によく見られる感染性の角膜炎の名称を記入せよ
(((アカントアメーバ角膜炎)))

5.ゴールデンハー症候群に見られる症状を3つ記入せよ
(((角膜類皮嚢腫)))
(((副耳)))
(((耳痩孔)))

脳解剖

1. 脳の構造

・脳・・・大脳 小脳 脳幹 からなる
・脳幹・・・中脳 橋 延髄 からなる
※間脳を含む場合もある


2. 大脳

重さ:男性 1350g 女性 1250g

2-1. 構造

・大脳は溝によって区分される
・大脳縦裂:右脳と左脳を区別
・中心溝:前頭葉と後頭葉 を区分
・頭頂後頭葉:頭頂葉と側頭葉と区分

外側葉:側頭葉を区分

※上側:大脳縦裂により区分
※外側:前頭葉・頭頂葉・側頭葉・後頭葉
※底面:橋・延髄
※断面:大脳皮質(灰白質)

・大脳皮質(灰白質)…神経細胞の細胞体の集合 厚さ:2~5mm
・大脳髄質(白質)…神経繊維が走行
・辺縁系  脳梁…白質から成り左右半球を連結
・大脳基底核…レンズ核・尾状核・扁桃体・海馬


2-2. 働き

高度な知能活動から本能的活動までさまざま

3. 小脳

重さ:135g(男性) 125g(女性)

3-1. 構造

脳幹(橋と延髄)の背側に乗っており、小脳テントで大脳と区分されている
※小脳と大脳を分ける硬膜のこと

3-2. 働き

運動の調整、身体の平衡感覚
※大脳が主に運動を制御し、小脳が調整している。小脳が障害されると、腕が震える、歩行時の身体傾斜、眼震などが起こる


4. 脳幹

4-1. 構造

・大脳半球と脊髄の間に存在
・上から 間脳・中脳・橋・延髄
・間脳は 視床と視床下部に分かれ、下垂体がぶらさがっている
※視交叉あたりにある

4-2. 働き

吸収・体温・心拍など基本的生命活動の中枢
※下垂体が腫れると視交叉が障害され、視野障害が起こる