2011年8月25日木曜日

ぶどう膜炎 

10.2 ブドウ膜炎uveitis
² 概念
ブドウ膜とは虹彩・毛様体・脈絡膜の総称であり、角膜・強膜からなる眼球の外膜と神経上皮由来の網膜からなる内膜のあいだに中膜として存在し、血管とメラノサイトに富む。前部ブドウ膜炎は虹彩炎・iridocyslitis・cyslitis・pars planitis を含み、後部ブドウ膜炎はretinochoroiditis のことで、ブドウ膜炎とは前後部ブドウ膜に炎症が生じた状態である。ただし広義には網膜炎も含まれる。

² 分類
{ 前部ブドウ膜炎
¤ 虹彩炎
¤ 虹彩網様体炎
{ 中間部ブドウ膜炎intermediate
¤ pars planitis
{ 後部ブドウ膜炎
retinitis,choroiditis,retinal vasculitis, optic neuritis を含む。症状とし
て視野狭窄や視力低下を招きやすく、予後も悪い。
¤ 網膜炎
¤ 脈絡膜炎
¤ 原田病Vogt-Koyanagi-Harada disease
¤ 急性網膜壊死, 桐沢型ブドウ膜炎
{ 汎ブドウ膜炎
炎症の種類によって分類すると以下のようになる。
{ 肉芽腫性ブドウ膜炎
リンパ球や類上皮細胞が集まって肉芽腫を形成するもの。梅毒・結核・ウェゲナー肉芽腫症・交感性眼炎など。
{ 非肉芽腫性ブドウ膜炎
リンパ球や形質細胞の浸潤はみられるが、肉芽腫を形成しないもの。ベーチェット病・関節リウマチ・強直性脊椎炎など。

² 原因
日本ではベーチェット病・サルコイドーシス・原田病が原因として多い。
{ 外因性
外傷や外科手術に起因する。
{ 内因性
病原体が血行性に移行した場合や、自己免疫反応に起因する。
¤ ベーチェット病
¤ サルコイドーシス
¤ 原田病Vogt-Koyanagi-Harada disease
¤ 潰瘍性大腸炎
¤ 感染症
¢ 帯状疱疹
¢ トキソプラズマ症
¤ 免疫異常
¤ 悪性腫瘍

² 症状
視力および眼圧に異常を呈することが多い。

² 検査所見
{ 角膜所見
¤ 角膜後面沈着物keratic precipitate
前房中の炎症細胞が角膜内皮に沈着したもの。
¤ 角膜内皮細胞の障害による角膜浮腫
¤ 帯状角膜変性症band keratopathy
前部ブドウ膜炎の遷延化。
{ 毛様充血ciliary injection
虹彩、毛様体の炎症による毛様体部の充血であり、前部ブドウ膜炎で見られる。
{ 前房所見
炎症によって前房水中のタンパク濃度が上昇して混濁し、その中に炎症細胞が浮遊する像がみられる。
¤ 前房蓄膿
{ 隅角所見
隅角結節・隅角色素沈着など。
{ 虹彩所見
{ 硝子体所見
¤ 硝子体混濁
通常は微塵状混濁がみられるが、混濁が大きくなって弓状を形成すると雪玉状混濁snow ball like opacity となり、それが連なると首飾り状混濁string of pearls と呼ばれる。
{ 眼底所見
¤ 網膜浮腫
¤ 視神経乳頭所見
¤ 網膜血管炎
¤ 原田病では夕焼様眼底sunset fundus広汎な色素脱失により眼底が明るく見える。

² 合併症
{ 併発白内障

² 治療
{ 散瞳薬
虹彩網様体炎に対して、前眼部の安静と虹彩後癒着を防止するために
用いられる。
{ ステロイド剤
ただし副作用による白内障と緑内障の合併に注意する。
{ 抗菌剤
{ 免疫抑制剤
{ 毛様体筋麻痺薬cycloplegic
毛様体筋を麻痺させる。
10.2.1 前部ブドウ膜炎,虹彩毛様体炎anterior uveitis,iridocyclitis

² 概念
前部ブドウ膜炎とは虹彩炎・虹彩毛様体炎・毛様体炎・pars planitis などを
いう。

² 原因
{ 内因性
病原体が血行性に移行した場合や、自己免疫反応に起因する。
¤ 自己免疫性
¢ ベーチェット病
内因性のブドウ膜炎としては最多である。
¢ サルコイドーシス
¢ 若年性関節リウマチ
¢ 強直性脊椎炎
¢ ライター症候群Reiter's syndrome
¢ Lens-induced uveitis
¤ 感染症
¢ 角膜ヘルペス
¤ サルコイドーシス
¤ 悪性腫瘍
{ 外因性
外傷や外科手術に起因する。

² 症状
{ 羞明感
{ 霧視
{ 前房蓄膿hypopyon
前房下部に白血球が貯留したために、前房下方に白血球が水平線を形成した所見をいう。

² 合併症
高眼圧にも低眼圧にもなりうる。
{ 続発性緑内障
炎症の結果として隅角に滲出物が蓄積するから。
{ 眼球癆
毛様体炎が強いと毛様体での房水産生の低下により、低眼圧から眼球癆を招く。

² 治療
{ 散瞳薬
アトロピンを点眼し、毛様体筋を麻痺させて散瞳させることで虹彩の癒着を防止する。虹彩毛様体炎が主体となる病型が適応となる。

 後部ブドウ膜炎posterior uveitis
² 概念
網膜炎, 脈絡膜炎,retinal vasculitis, optic neuritis を含む。症状として視野狭窄や視力低下を招きやすく、予後も悪い。

² 原因
{ 原田病Vogt-Koyanagi-Harada disease
{ 急性網膜壊死, 桐沢型ブドウ膜炎
{ ベーチェット病
{ サルコイドーシス
{ 感染症
¤ 結核
¤ 梅毒
¤ ハンセン氏病
¤ トキソプラズマ
血行性にトキソプラズマ原虫が眼に移行する。
¤ 真菌性眼内炎
¤ サイトメガロウイルス網膜炎
{ MEWDS, multiple evanescent white dot syndrome
{ APMPPE, acute posterior multifocal placoid
{ Birdshot retinochoroidopathy
{ 地図状脈絡膜炎
{ 交感性眼炎
{ 急性網膜壊死(桐沢型ブドウ膜炎)

² 治療
{ ステロイド全身投与
網脈絡膜炎が主体となる病型が適応となる。

脈絡膜炎chorioiditis
² 原因
{ 原田病
{ 先天性トキソプラズマ症
² 検査所見
{ 眼底検査
黄斑部を中心に強膜を露出した網脈絡膜炎の瘢痕萎縮を呈する。

原田病Vogt-Koyanagi-Harada disease
² 概念
数日間の経過で高度の視力障害を起こす、両眼性の急性びまん性ブドウ膜炎である。急性に発症し、脈絡膜をはじめ皮膚や髄膜などの色素細胞を系統的に侵すものである。

² 病因
色素上皮のメラノサイトに対する自己免疫疾患であると考えられている。

² 症状
感冒症状や髄膜炎症状の後に突如として耳鳴り・感音性難聴・頭痛ではじまり、その数日後に両眼性の視力低下を来たす。皮膚症状は最後に出現する。
{ 感音性難聴
{ 視力低下
急激に両眼性に視力が低下する。
{ 色素脱失
頭髪や皮膚に斑状の脱色素が出現する。
¤ 皮膚白斑
¤ 脱毛症

² 検査所見
{ 眼底検査所見
¤ 脈絡膜の腫脹と混濁
¤ 夕焼け様眼底sunset fundus
脈絡膜の色素細胞が破壊されて脈絡膜血管が透見される所見であり、治癒後に見られる。
¤ 滲出性網膜剥離
{ 蛍光眼底像
脈絡膜側からの色素漏出点が多発し、剥離した網膜下に貯留する。
{ 髄液所見
無菌性髄膜炎を呈する。

² 治療
しばしば再燃する。
{ ステロイド大量療法
急性網膜壊死, 桐沢型ブドウ膜炎
サイトメガロウイルス網膜炎cytomegalovirus retinitis

交感性眼炎sympathetic ophthalmia
² 概念
片方の眼球に穿孔性外傷を受け、その後に他眼に発症するブドウ膜炎をいう。

² 病態生理
外傷時に脱出したブドウ膜が空気に触れ、変性した色素上皮に対して自己免疫反応が生じたために、健側のブドウ膜にも炎症が波及する。

² 症状
原田病に類似する。

² 治療
{ 薬物療法
¤ アトロピン点眼
¤ ステロイド全身投与
{ 外科療法
¤ 眼球摘出術
重症例に対しては健眼を助けるために受傷した眼球を摘出する。

眼サルコイドーシスocular sarcoidosis
多臓器に非乾酪性の類上皮細胞肉芽腫を形成する原因不明の全身性疾患であり、眼病変としては肉芽腫性のブドウ膜炎を呈する。

² 病態生理
非乾酪性肉芽腫が全身の諸臓器に形成される。
{ 眼病変
¤ ブドウ膜炎uveitis
¢ 虹彩炎
¢ 脈絡膜炎
¤ 網膜静脈炎retinal phlebitis
¤ サルコイド結節
¤ 周辺虹彩癒着peripheral anterior synechia,PAS
隅角のサルコイド結節が吸収されて周辺虹彩の前面と角膜が癒着するものであり、房水の流出障害によって眼圧上昇を続発する。
{ 皮膚病変
¤ 皮膚サルコイド
¤ 瘢痕浸潤
¤ 結節性紅斑
{ 肺病変
特に肺胞領域の間質に肉芽腫が形成され、その近傍にはリンパ球および単球の浸潤が見られる。
¤ 両側肺門リンパ節腫脹

² 症状
羞明感や視力障害など両眼性に見られる。
{ 急激な視力低下

² 検査所見
{ 眼底所見
¤ 眼底のワックス様浸潤candle-wax spot
¤ 網膜の新生血管増生retinal neovascularization
¤ 真珠の首飾りstring of pearls
{ 血沈亢進
{ 高カルシウム血症
{ γグロブリン上昇
{ 血清ACE 上昇
{ ツベルクリン反応陰転化

² 合併症
{ 続発性緑内障
² 病理所見
封入体を持つ多核巨細胞の出現が見られる。

² 治療
{ 抗炎症剤としての副腎皮質ホルモンの投与特に心臓・中枢神経・腎臓などの生命予後に関係する臓器が侵された場合には絶対適応となる。

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