網膜出血
² 種類
{ 網膜前出血
網膜内境界膜と視神経線維層のあいだに網膜血管から出血したもの。増殖性糖尿病網膜症で好発する。眼底所見にてニボーを形成するのが特徴である。
{ 網膜浅層出血
神経線維層に出血したもので、神経線維によって出血部位が放射状に見える(火焔状出血)。網膜中心静脈血栓や白血病性網膜症で生じる。
{ 網膜深層出血
網膜血管よりも深部に見える。出血は暗赤色の小斑状(点状出血) で、主として外顆粒層にたまる。糖尿病性網膜症で好発する。
{ 網膜下出血subretinal hemorrhage
{ 網膜色素上皮下出血hemorrhage under the pigment epithelium
{ white central hemorrhage(Roth's spots)
網膜中心動脈閉塞症,網膜中心動脈塞栓症centralretinal artery occlusion,CRAO
² 概念
網膜中心動脈の閉塞である。網膜中心動脈は視神経の中心を通り、視神経乳頭上で枝分かれしたのち、神経線維層で毛細血管網を形成しながらさらに分岐する。本動脈は終末動脈であるから血行途絶は直ちに壊死につながることになり、救急治療の対象となる。
² 原因
{ 動脈硬化症
{ 糖尿病
{ 大動脈炎症候群
{ 高眼圧
緑内障や外力に起因する。
{ 塞栓症
¤ 感染性心内膜炎
² 症状
突然として急激な視力消失を呈する。前兆として一過性の視力低下や光視症が先行することもある。
{ 直接対光反射消失
² 検査所見
{ 眼底検査
閉塞部位よりも抹消の網膜動脈が著しく細いか、途絶している。網膜は虚血に陥るため網膜出血はない。
¤ 桜実赤斑cherry red spot
網膜動脈の虚血によって網膜内層の軸索が膨化し眼底が広範囲に乳白色に混濁するが、網膜内層を欠く中心窩は脈絡膜より栄養されるので小紅斑として残る。
² 治療
発症後数時間で不可逆性の変化に発展するので、救急治療の対象となる。
{ 血管拡張剤
亜硝酸アミルの吸入で網膜血管を拡張する。
{ 前房穿刺
眼圧を下げる。
{ 眼球マッサージ
網膜血管の循環を改善する目的で行なう。
網膜静脈閉塞症
² 分類
{ 網膜中心静脈閉塞症CRVO
{ 網膜静脈分枝閉塞症BRVO
網膜中心静脈閉塞症CRVO の数倍発症しやすい。
網膜中心静脈血栓, 網膜中心静脈閉塞症central retinalvein occlusion,CRVO
² 概念
生理的な狭窄抵抗のある網膜静脈の視神経篩板部通過部位に好発する。高血圧や糖尿病を持つ高齢者に多く、左眼よりも右眼に好発する。
² 病態生理
動脈硬化によって静脈が圧排され、網膜中心静脈が主幹部で閉塞することにより、視神経乳頭を中心に放射状の網膜出血を来たす。
{ 網膜浅層出血linear hemorrhage, super¯cial retinal hemorrhage
網膜表層の神経線維層に出血したもので、神経線維の走行に沿って出血するため、放射状に見える。
{ 新生血管の出現
広範囲な網膜虚血に反応して血管新生促成因子が産生され、血管新生が亢進する。発症から半年ほど経って出現するが、血管壁が脆弱なために容易に出血し、続発性緑内障へと発展する。
² 症状
突然、無痛性に視力低下を来たす。
² 検査所見
{ 眼底所見
¤ 火焔状出血°ame-shaped hemorrhage
¤ 綿花様白斑cotton-wool spots
² 合併症
{ 新生血管緑内障neovascular glaucoma
糖尿病性網膜症や虚血性網膜中心静脈閉塞に続発し、虹彩の血管新生(虹彩ルベオーシス) によって前房角が閉塞されて眼圧が上昇するもので、予後不良となりやすい。広範囲な網膜虚血に反応して血管新生促成因子が産生され、これによって血管新生が亢進する。
{ 慢性黄斑浮腫
² 治療
{ レーザー光凝固法
蛍光眼底造影で無血管野を探し、ここをレーサーにて焼灼し、新生血管の増生を抑制する。また新生血管緑内障を予防する目的で虹彩ルベオーシスに対して行なう。
網膜静脈分枝閉塞症branch retinal vein occlusion,BRVO
² 概念
網膜静脈の分岐が閉塞を来たし、網膜に出血を来たす疾患である。上耳側静脈域に好発する。
² 原因
高血圧が危険因子となる。網膜の動静脈が交差する部位は血管壁が共通であるために動脈硬化が静脈に波及しやすいからである。また交叉現象は上耳側に生じやすいため、本症は上耳側静脈域に好発する。
² 病態生理
網膜静脈分枝閉塞症では動静脈交叉にて静脈の閉塞と出血が生じるとともに、それより末梢では毛細血管が閉塞して無血管野となる。
{ 動静脈交叉現象arteriovenous crossing phenomenon
高血圧性網膜症において、動静脈はその交叉部において外膜を共有しているために動脈壁が肥厚すると静脈が圧迫されて閉塞する。これより抹消では血液の鬱滞と出血が生じる。交叉現象は上耳側に多い。
{ 無血管野領域
出血を来たした部位の網膜は毛細血管が閉塞し、のちに無血管野となる。無血管野からは新生血管が増生することになる。
² 症状
{ 視野障害
² 検査所見
{ 眼底所見
動静脈交叉から抹消にかけて、閉塞した静脈の支配領域に応じた網膜出血を認める。
² 合併症
{ 黄斑浮腫
{ 網膜新生血管
² 治療
{ 光凝固法
無血管野領域に対して行ない、新生血管の増生を抑制する。
網膜色素変性症pigmentary retinal dystro-phy,retinitis pigmentosa
² 概念
夜盲や視野障害などの症状を呈する遺伝性疾患の総称であり、遺伝形式は常染色体劣性遺伝が多い。10 歳頃より発症し、徐々に進行しながら最終的に50 歳頃には失明に至る。
² 病態生理
常染色体優性遺伝形式の本症ではロドプシン遺伝子の異常が報告されている。
² 症状
{ 暗順応障害nyctalopia
進行性の夜盲を呈する。
{ 視野狭窄
最初は輪状暗転で始まり、求心狭窄に至る。なお眼圧は正常であり、中心窩は末期まで侵されないので中心視力は長期間保たれる。
² 検査所見
{ 眼底所見
¤ 骨小体様色素沈着bone-spicule formation
眼底上周辺網膜に骨小体を特徴とする黒色の色素斑が出現する。
¤ 血管の狭細化
¤ 嚢胞様黄斑浮腫
{ 網膜電図ERG
初期からa 波およびb 波が消失する。
² 合併症
{ 白内障
網膜剥離retinal detachment
感覚網膜が網膜色素上皮層から剥離する病態をいう。
² 分類
{ 裂孔原性網膜剥離rhegmatogenous retinal detachment
裂孔rhegma から硝子体液が網膜下に入り込むと、色素上皮と視細胞外節との接着は弱いために、色素上皮と視細胞層との間が剥離する。網膜剥離のなかで頻度がもっとも多い。
¤ 後部硝子体剥離
¤ 眼球外傷
{ 牽引性剥離tractional detachment
多くは増殖性糖尿病性網膜症に起因し、網膜が硝子体眼房に牽引されることで生じる。
¤ 増殖性糖尿病性網膜症
¤ 未熟児網膜症
{ 漿液性剥離, 出血性剥離serous detachment,hemorrhagic detachment
色素上皮層や脈絡膜の疾病に続発し、感覚網膜の下に液が貯留することによって生じる。
¤ 中心性漿液性網脈絡膜症(増田型)
¤ 原田病
¤ 老人性黄斑変性
² 症状
{ 飛蚊症
{ 光視症
{ 視野欠損
{ 視力障害
{ 虹彩振盪iridodonesis
眼圧が下降するために眼球運動に伴なって虹彩がピラピラと振動する所見である。
² 検査所見
{ ERG
a 波およびb 波とも減弱もしくは消失する。
{ 眼圧低下
² 合併症
{ 線状網膜炎striate retinitis
² 治療
{ 裂孔原性網膜剥離に対する治療
裂孔を閉鎖し、網膜下液を排除して網膜を完全に復位する。さらに脈絡膜内に損傷部をつくって網膜をこれに瘢痕癒着させる。
{ 牽引性剥離に対する治療
硝子体切除、scleral buckling, ならびに眼球内へのシリコン油の注入。
{ 漿液性剥離, 出血性剥離に対する治療
裂孔原性網膜剥離rhegmatogenous retinal detachment
² 概念
色素上皮とBruch 氏膜との接着は強固であるのに色素上皮と視細胞外節との接着は弱いため、裂孔から硝子体液が網膜下に入り込み、色素上皮と視細胞層との間が剥離する。網膜剥離のなかで頻度がもっとも多く、しばしば後部硝子体剥離posteriorvitreous detachment に随伴する。
² 分類
{ 急性裂孔原性網膜剥離
硝子体が裂孔を通じて網膜下腔に侵入し、sensory retina を色素上皮層から剥離する。
{ vitreoretinopathy に随伴した裂孔原性網膜剥離
² 原因
強度近視・無水晶体症・外傷などが契機となる。
{ 近視myopia
¤ 格子様変性lattice degeneration
¤ 後部硝子体剥離
{ 無水晶体症aphakia
{ 眼球外傷
² 症状
突発的に発症することが多い。
{ 光視症
網膜剥離の瞬間にキラキラと光ったものが見える。
{ 飛蚊感
{ 視力低下、視野狭窄
² 治療
裂孔を閉鎖し、網膜下液を排除して網膜を完全に復位する。さらに脈絡膜内に損傷部をつくって網膜をこれに瘢痕癒着させる。
{ 強膜短縮scleral buckling
弾力性のあるシリコン樹枝の棒などを強膜上に置き、この上に縫合糸をかけて強膜を網膜側に密着させる。
{ 硝子体置換術pneumatic retinopexy
ガスやオイルを眼内に注入する。
牽引性網膜剥離tractional retinal detachment
² 概念
多くは増殖性糖尿病性網膜症に起因し、網膜が硝子体眼房に牽引されることで生じる。
² 原因
{ 糖尿病性網膜症
{ proliferative vitreoretinopathy
{ 未熟児網膜症
{ 眼球損傷
² 症状
症状は緩徐に進行するため飛蚊症やphotopsia が見られることは少なく、視野障害が徐々に進行する。
² 治療
硝子体切除、scleral buckling, ならびに眼球内へのシリコン油の注入を行なう。
未熟児網膜症retinopathy of prematurity,retrolental ¯broplasia, ROP
² 概念
網膜血管の増殖と出血によって網膜剥離をきたして失明するもので、未熟児の失明の原因として最多である。
² 原因
特に高酸素血症が誘因となる。
² 病態生理
出生後、網膜血管が順調に発育せずに異常な新生血管が発生し、出血と瘢痕によって牽引性網膜剥離に至る。
網膜浮腫retinal edema
² 原因
{ 糖尿病性網膜症
{ ブドウ膜
{ 高血圧性網膜症
黄斑部疾患
² 種類
{ 中心性漿液性網脈絡膜症(増田型)
眼底所見にて、黄斑部を含む円形の限局した浸出液貯留による網膜剥離を呈する。
{ 中心性滲出性網脈絡膜炎(Rieger 型)
{ 梅毒性中心性網脈絡膜炎
{ トキソプラズマ性網脈絡膜炎
² 症状
{ 中心暗点
中心性漿液性網脈絡膜症, 中心性網脈絡膜症増田型centralserous chorioretinopathy,CSR
² 概念
漿液性の網膜剥離であり、精神的なストレスの多い働き盛りの男性に好発する。
² 病態生理
黄斑部の網膜と脈絡膜のあいだにある色素上皮に裂け目ができ、脈絡膜からの漏出液が網膜下に貯留する。
² 症状
{ 中心暗点central scotoma
{ 色覚異常
{ 変視症metamorphopsia
漏出液によって網膜が隆起するため、対象が歪んで映る。
{ 遠視化
眼軸が短縮して遠視化する。
² 検査所見
{ 眼底検査
黄斑部を含む円形の限局した浸出液貯留と、それによる網膜剥離が認められる。
¤ 黄斑浮腫
{ 蛍光眼底撮影
病態を反映して、黄斑部において噴水状に漏出する色素が見られる。
¤ smoke-stack
² 治療
通常では半年以内に自然治癒する。視力低下が著しい場合や再発する難治例に対しては光凝固法を用いる。
{ 光凝固法
ただし本症は黄斑部近傍が病変なのでレーザーが黄斑部に照射されないように注意する。
黄斑変性macular degeneration
² 概念
錐体細胞に障害を受けるので視力低下が必発となるが、網膜電図は正常である。
² 分類
{ 老人性
¤ 萎縮型
¤ 滲出型, 円盤状黄斑変性
{ 先天性
² 症状
{ 中心暗点
老人性黄斑変性, 年齢依存性黄斑変性, 加齢黄斑変性senile macular degeneration,age-
² 概念
60 歳以上の高齢者に見られる黄斑変性症をいう。欧米では高齢者の失明の原因として最多である。
² 分類
{ 萎縮型dry,nonexudative
網膜色素上皮層・Bruch 膜・脈絡膜毛細血管に萎縮と変性を生じる。
{ 滲出型, 円盤状黄斑変性wet, exudative, disciform
黄斑下の脈絡膜から生じた新生血管の増生によって黄斑下出血や黄斑浮腫などを続発して高度の視力障害に陥る。
² 原因
紫外線暴露が要因のひとつであると考えられている。
² 病態生理
Bruch 膜に亀裂が生じ、脈絡膜毛細血管層から色素上皮下にかけて新生血管が増生する。この新生血管が出血を繰りかえして結合組織の増生を生じる。特に黄斑部の網膜に好発するため視力低下は必至である。
² 症状
両側性に中心性の視力低下を生じる。
{ 中心暗点
{ 変視症
結合組織の増生によって黄斑部が隆起して変視をきたす。
² 検査所見
{ 眼底検査
滲出型では網膜下出血や硬性白斑など、新生血管を示唆する所見を得る。初期にはドルーゼンdruzen と呼ばれる黄色の沈着物が黄斑部に出現する。
{ 蛍光造影眼底検査
脈絡膜からの増生する新生血管が描出され、確定診断となる。
² 合併症
{ 漿液性網膜剥離
² 治療
{ レーザー光凝固法
黄斑下の新生血管が中心窩の外にある場合はこれを破壊する。病期の進行を抑止できるが、失われた視力は回復しない。
{ 硝子体手術
{ 網膜回転術
13.7.3 黄斑浮腫macular edema
² 原因
{ 眼内手術
白血病性網膜症,白血病眼症leukemic retinopa-thy
² 概念
白血病、主に急性白血病に合併した眼病変をいう。
² 検査所見
{ 眼底所見
¤ 綿花様白斑cotton-wool spots
¤ 網膜出血
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